駐日米大使候補にジョン・ルース氏が浮上――ワシントンの反応を探る
ジョン・ルース(John V. Roos, CEO, Wilson Sonsini Goodrich & Rosati)(写真は、同氏所属会社の公式略歴より)の名前が駐日米大使候補として挙がってきたことを、日系メディアが盛んに伝える一方で、米国内メディアは、一部が日系メディアを引用する形で報道している以外は、大多数は今のところ静観している。
同ニュースが、日本でどの程度の重要性をもって伝えられているのか、私としては、オンラインで得られる情報から想像するしかないのですが、 日本側(日系メディア、日本政府外交筋、国内エリート層)の反応は、一様に否定的。不満、失望が明らかに見て取れます。
これは日本のメディアだけに言えることでないのかも知れませんが、ニュース事項が一定の「トーン」をもって伝えられる時の日本のメディア社の横並びが異常、または、行き過ぎていると感じる時があります。例えば、今回のルースの件では、これまで少なくとも日本の多くの関係者の間で大使就任確実と見られていたジョセフ・ナイ(右写真:CSISより)からルースへの「スイッチ」は、(オバマ政権に対して)全くもってけしからん、というトーンがありありです。どの記事をを読んでも、こうしたメッセージとその他の基本的な記述は似たり寄ったりで、非常に薄っぺらな報道の印象が否めません。これは、時として正確な事実認識や判断を狂わせる可能性があり、危険ですらあると感じることがあります。
私は、報道の現場の現実を良く知りませんが、これは、例えば、海外駐在記者が、日本のニュース・サイクルと業務の締め切りと戦いながら、速報性を重視して部分的な情報で伝えるからなのでしょうか。他社の報道を横並びで見ているからなのでしょうか。それとも、東京本社が、ニュースの見方、報道の仕方に、もとより一定の色というのか、方向性というのかを持っており、これによって編集し直されたニュースが日本国内に伝わるからなのか。いずれにしても、ワシントンの情報源に地理間を少しでも持つ身として、あまり、日本のメディアの報道だけを鵜呑みにして、私自身の判断をしないようにしています。そういった意味もありまして、(日米関係は私の専門外で)素人の付け焼刃ですが、米側から日米関係を定点観測している人たちが同ニュースをどのように見たのか、ポイントを拾ってみました。
先週半ば(5月20日ごろ)、Chris Nelsonが発行している『Nelson Report』 でジョン・ルース指名の方向でオバマ政権が最終調整に動いていることがレポートされたことで、ワシントンでも、同ニュースが、朝日新聞をはじめとする日系メディアの単なる先走り報道ではないことが確認されたようである。
日系メディアに対する厳しい指摘も散見する。「ナイからスイッチされたことに対する日本側からの失望」というが、「日本大使はジョセフ・ナイで決まったも同然」といった日本関係者の認識と期待は、オバマ政権が発足もしていない段階で先走った報道をした朝日新聞、その後に続いた読売新聞を始めとする日系メディアによって作られたもの。日本側の不満は、オバマ政権に向けられるものではなく、自国のメディアに向けられるもの、と批判の声がある。もちろん、この辺りの判断は、ナイに対する就任要請が、どの段階にまで達していたのかが明るみにされないと難しいだろう。
――少し余談になるが、日米関係を専門とする友人から、以下のようなコメントをもらった(私も、全くの同感)。とジョセフ・ナイへの就任要請がどの段階に達していたのか事実関係は分からないが、ナイの身になって考えれば、就任辞退の判断は妥当だろう。ナイは高齢であり、大使ポストを受けてしまうと、これが彼の公職最後のポスト(場合によっては、彼のキャリアを締めくくる最後のポスト)になる可能性がある。日本大使を務めたことへの米国内での評価がどれほどのものかと考えると、「元日本大使であり、ハーバード教授だったナイ」と世間に見られることに、それほど彼は魅力を感じなかっただろう。ましてや、ナイ自身、大使として日米関係の現地責任者とされてしまうよりも、「ソフト・パワー」「スマート・パワー」などで彼が提唱してきた概念を携えて、より広く米国の外交戦略全体に影響を与えられるようなポストを好んだだろう。そうであれば、国務省や国防総省などの高官として招かれていれば、彼はOKしていただろう。そして、高齢の身としてご自身や家族も含めての生活を考えた時、もう海外赴任は受けないと決めておられる可能性もある。これらを総合すると、辞退は妥当だろう。
米国内の同ニュースに対する反応は分かれている。米一般国民には全く知られていないため、反応が見られるのは、米側から日米関係に直接関係のある層と“Japan Watcher”、“Japan Hand”たちのみ。米国内でジョセフ・ナイの就任を期待していた人たちの間では、当然、ルースにスイッチされたことに対する不満がある。この中には、リチャード・アーミテージなど親日・知日派、日米関係を米側から司ってきた代表格のような人物も含まれるという。彼らは、日米関係への思い入れれから、駐日大使には、日本に対する理解の深い人物が就任すべきだと考えているようであり、ルースの人選には不満が尽きないようだ。
一方で、“Japan Watcher”らは、日本側の不満を十分認識しつつも、必ずしもルースのニュースを否定的に捉えてない。彼らの説明を総合すると、以下の三つの理由が挙げられる。 第一に、駐日大使ポストが、欧州の主要国大使のポストと同格に並んだ証拠である。日本がそうした国々の仲間入りをした。いうならば「普通の国(normal country)」の仲間入りをしたということ。
――主要国大使ポストは、政権閣僚や省庁首脳ポストと並んで、政権に対して功績のあった者への報酬人事で使われることが多々あるのは周知の事実。しかし、大使ポストをこうした目的で使う場合、欧州の主要国ポストが使われることが通常。ルースのキャリアやバックグラウンドを見るに、日本との接点は全く見当たらず、彼が大統領選でオバマの資金調達で果たした大きな役割とそのための大統領との関係の近さ以外に候補に挙がった理由が見当たらないことから、明らかに報酬人事。それも、欧州ではなく東京に送られることに。これは、東京ポストが、ロンドンやローマポストと同格に見られ始めたことの証拠であるとの見方である。
――「仲間入りした」ということと関連して興味深いのは、同じくオバマ政権の駐英米大使候補に挙がっているLouis Susmanに対して、英メディアや英国内から不満が挙がっていること。政権が変わるたびに、政治任用、かつ報酬人事で送られてくる大使の顔ぶれが気にかかるのは、何も日本だけではない。
第二に、誰の目から見ても関わりの深いキャリアやバックグラウンドを持つ大使が送られてくる国とは、たいてい米国から見て問題が多く深い国であること。日本大使がルーツでもよいとの米国の判断は、日米関係の重要度が下がったことを意味しているのではなく、両国関係の抱える問題の数や深刻さの程度が低いというだけのこと。
――中国語を喋り中国通のジョン・ハンツマンが、中国駐在大使に決まったことを引き合いに出し、中国重視、日本軽視の大使人事だと不満を述べる日本関係者もいるが、米中間に山積する問題の深刻さと複雑さ、中国との付き合いの難しさ、また、米国が中国に気を許していないところがあることなどからして、北京を報酬人事に使うことなど考えられないわけで、ハンツマンのような人物が送られることは、当然も当然。裏返せば、それだけ日本への信頼や安心感が成熟してきたことの証拠。
――オバマ政権は、金融・経済危機、イラク、アフガニスタンなど、多くの緊急を要する重要案件を政権発足時より抱え、ロケットスタートを切ったが、そもそも、オバマ大統領、それから、同政権は、「問題解決型」の傾向が強いと表現する人がいる。政権閣僚人事、大使・特使人事、その優先順序や顔ぶれなどには、その特徴が出ているという。日本は、良い意味で、オバマ政権の問題解決優先順位の低い国と考えられる。逆に言えば、オバマ政権のそうした特徴からすれば、日本への今後の評価も、両国間、または、地域内での問題解決への日本の貢献度によってシビアに決まってくることが予想される。
第三に、大統領と直接のパイプを持つ人物が大使として送られてくることは、日米関係の重要案件を、国務省や国防総省を介さずして直接オバマ大統領の耳に届けることが容易になることも考えられ、その意味では、日本通だがオバマとの距離感がある人物が送られてくるよりも結果的に功を奏すかもしれない
――ブッシュ政権下でのシーファー大使、オバマ政権下での大使候補として早くから名前が挙がっていたジョセフ・ナイ、そして、ジョン・ルースの三人を比較して、「大統領との関係は近かったが、単なる友達に過ぎなかったシーファー」、「日本通で日本国内からも大変尊敬されるが、単なる学者に過ぎないナイ」に比べれば、もしかしたら、ルースの人事は、結果的に日本側にとっても良い人事となる可能性があるとの指摘もある。
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<参考>
同ブログ執筆に際して、日米の一般メディア報道に一通り目を通した以外に、特に、以下のソースを参考にしています。ブログ内に挙げたポイントの詳細は、これらのオリジナル・ソースを合わせてご覧いただくことを是非お勧めします。
"Finally, A Normal Country," Armchair Asia, May 21, 2009.
Tobias Harris (MIT), "Roos to Japan," Observing Japan, May 24, 2009.
Jun Okumura (Eurasia Group), "We Are Not Alone: Ambassador to-Be to London Louis Susman, Another Obama Bagman Extraordinaire," GlobalTalk 21, May 24, 2009.
Joshua Green, "The Amazing Money Machine," The Atlantic (June 2008).
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