今年もやってきました、恒例の一般教書演説。私なりに演説の印象やポイントを以下に書き止めてみました。
政治的立場を一部取り戻したオバマ政権
今年の一般教書演説を迎えるに当たっての重要な背景の一つとして、秋の議会選挙大敗で失墜したオバマ政権の政治的立場と、それ以降の回復基調を押さえておく必要があるだろう。要因として二つ。一つは、民主党多数議会のレイムダック期における成果。ブッシュ減税と失業保険特別支給期間の延長、 “Don’t Ask. Don’t Tell.” のスローガンで有名な米軍における同性愛者を実質的に排除してきた慣行を撤廃、ロシアとの軍縮条約 (New START) の批准など、多数党交代まじかの短期間の成果としては、申し分ない。
二つ目は、アリゾナ州トゥーソンの銃乱射事件の政治的影響。事件当初は、党派間の政治戦に油を注ぐ様子が見られたが、これを沈静化させ、党や政治思想を超えた「アメリカ」の下に団結し直す上で犠牲者追悼式でのオバマのスピーチは、多くの米国民の心に響く影響力の高いスピーチとして好評を博した。
演説作成チームは、この回復基調を残り二年の任期、2012年の大統領選に向けて投影させような、ポジティブ、未来志向の論調、語調を意図したと見られる。
議会多数党が交代する現実への対処
もう一つ背景として押さえておくべきは、レイムダック期にオバマ大統領が、共和党多数議会対応に向けて政権体制をシフトしたことだ。選挙大敗直後にオバマ政権が、ブッシュ減税・失業保険の問題で共和党陣営の要求に妥協を見せ始めた時には、オバマ大統領は、政策志向をより中道にシフトしながら共和党の協力を仰ごうとする「クリントン路線」をたどるのではないかと憶測されたものだが、その後の展開から二つのオブザベーションが挙げられる。一つは、オバマ政権が、新議会を迎えるまでに、党派間争いの鎮静化に務めたこと。二つ目は、レイムダック期のように今後も共和党議会との妥協点は出てくるであろうが、それが必ずしも「クリントン路線」を取ることにはならないであろう、という点である。オバマは、政権の政策志向を丸々シフトしていく気は無く、ピンポイント、ピンポイントでプラグマティックな意思決定を見せていくものと見られる。つまり、譲れるところ、譲れないところを明確にしつつ、協力できるところ、合意できるところで躊躇を見せず、そこから成果を狙おうとする姿勢である。
こうした党派間争いを鎮静化させる政権の意思と共和党多数議会とプラグマティックな政策意思決定によって成果を積み重ねようとする姿勢を反映する教書演説だった。
所属議員ごとに座る伝統を破る
今年の教書演説では上下院議員らが、これまでの所属党ごとの席配置の伝統を初めて破って、各自が決めたパートナーらと一緒に座ったことが大きな話題となった。米高校生らの卒業ダンスパーティ (plum party) になぞらえて、議員らは、「(教書演説へ誘う・一緒に座る)相手はもう決めた?」と盛んに問いかけられ、メディア各社は、当日の席順を紙面やウェブでクローズアップした。こうした一連の動きも、オバマ政権の党派争い鎮静化への意思を、議員らが汲み取ったものと見ても良いかもしれない。
但し、教書演説は、ワシントン政界のレッド・カーペットであり、一夜限りのお祭り的要素、雰囲気がある。通常業務に戻った議会でどこまで超党派アプローチが見られるかは、別問題。教書演説の夜が明けて、早速始まった各委員会運営の様子を見ると、見通しはあまり楽観できそうにない。
国内政策志向、競争力強化と雇用創出に力点、具体策ではなく枠組みとインスピレーション
演説内容の分析に際する基本的な見方の一つとして、演説で扱いの大きかったものと小さかった(言及されなかった)ものに注目する方法がある。
演説内容は、明らかに国内政策志向であり、中心的メッセージは、 “Winning the Future” というスローガンの下、教育、R&D、再生エネルギー、インフラ等に積極投資することでアメリカの経済競争力を取り戻し、長期的雇用創出へつなげよう、というもの。
議会選挙大敗の反省も受けて、国民の関心が景気回復、中でも雇用問題であったことを受けて、同課題を中心に据えたと理解できる。しかし、毎月、毎四半期の雇用統計が政権や議会の通知簿になっている感があり、向こう1月、四半期、半年、1年、「雇用創出にオバマ政権は具体的にどのような手を打ったのか」と常にメディアや国民から突きつけられている状態を、政権が嫌ったのであろう。
仮にGDP成長率などで景気回復基調が顕著になり、安定し始めたとしても、雇用が増え始めるにはたいてい時間的なラグがある。米国内の景気見通しとして緩やかながら回復・安定に向かっていると見られているとは言え、2012年大統領選挙キャンペーンのタイムテーブルとの絡みで、短期的な雇用創出政策で成果を出そうとしても間に合わない、または、成果があったとしても政権への支持率を大きく跳ね上げるほどの効果は期待できない、との政治・選挙戦略上の判断があったもの考えられる。
従って、雇用問題を真正面から取り組む姿勢を全面的にアピールしつつも、同問題を「リフレーム」(枠組みを変える)しようとする意図が見て取れた。
扱いの小さかった外交と長期財政再建
今回の演説は国内外の各政策分野を網羅した長いリスト (“laundry list”) にはならないとホワイトハウス報道官の事前のコメントの通り、力点が明確だった分、扱いの小さかった政策分野の関係者からのバックラッシュがあった。
一つは、外交政策コミュニティ。イラク・アフガニスタンは、「撤退する」がこと以外に特筆することは無く、新しい動きとしては、ブラジルをはじめとするラテンアメリカ地域へオバマ大統領が歴訪すること。核不拡散、イラン、北朝鮮に関しては、これまでの政権方針をくりかえしただけ。中東和平に至っては、言及さえされなかった。これに対して、当然不満や懸念の声は少なからずある。
しかし、オバマ政権が外交的に内向きな政権に転換するとまでは言いすぎであろう。演説の焦点が国内政策、競争力、雇用に置かれた理由は明らかであるし、オバマ政権の外交・安保上の政策イニシアティブも大きな変化無しに継続されるだろう。ただ、こうした外交政策の扱い、国内政策の強調の極端さを見て、多くの政治アナリスト・選挙戦略家たちは、オバマが今回の教書演説を皮切りに本格的に「2012年のキャンペーンモードの入った」ことを指摘している。
もう一つ見逃してならないのは、長期財政再建の扱いを、事前に想定されていたより驚くほど縮小してしまったことだ。オバマ大統領が、(税制の抜本改革など、ざっくりとした案もあるが)具体策として提示したのはただ一つ。 “non-defense, domestic discretionary spending”、つまり、連邦予算から社会保障支出など義務的支出を除き、さらに、裁量支出から防衛費を除いた残り予算を、向こう5年間増減なしで凍結することである。
この対象予算分野は、防衛費の定義の仕方で若干数字が変わるが、連邦政府総予算額の14~16%程度に満たず、ホワイトハウスはこれによって向こう10年間で4,000億ドル以上の節約になると試算しているが、これでは、総支出の1% の節約にも届かない。
これに対しては、不満や懸念レベルではなく、「財政の番犬」(“fiscal watchdog”) と称される財政的に中道から保守への勢力から一斉砲撃が始まっている。この勢力にとっては、オバマの医療制度改革も、長期的なコスト削減に踏み込めなかった点で大きな失望であったが、自らが設置した財政諮問委員会が、予想を上回る高評価を得る政策提言に結びつけたにもかかわらず、今回の演説で本腰を入れる方針を示さなかったことから、また大きな失望であり、残り二年のオバマ政権を既に見放す声も聞かれる。
オバマは、競争力強化の文脈で、政府への信頼回復に言及しているが、ドルや国債の市場の信頼については、手を打とうとしなかったことになる。結果的に最大の債権国である中国への依存を強めることになるのは明らかで、中国の台頭にさらに拍車をかけることになりそうだ。
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Photo Credit (for all three of them): White House